医療法人社団百子会 やまな病院

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故 前理事長 山名正俊のアトリエ

第8回「大切なこと」 2002
7.2

ご存じ、平家物語冒頭に、何事であれ続けることの難かしさを表現した名文句があります。

昭和の初め頃、日本から沢山の移民がアメリカへ渡りました。

彼らは無一文から出発し、当時の日本人特有の勤勉さ、真面目さで生活の基礎を固め、
更に子供の教育にも力を注いで、どの土地でも次第に高い評価を受けるようになりました。
そこへ始まった第二次世界大戦。

日本人は敵性民族として全米から強制的に、アリゾナの砂漠などの外界から孤立した収容所へ入れられました。収容される迄の与えられた数日間だけの時間、携帯を許された1人1個だけのトランク。

彼らはどのように準備し、何を詰め込んで収容所へ向かったでしょうか。

中味の大半は、決して金目の物でも衣類でもなく、自分の身の証の品々、それらは先祖とのつながり、子供達へ伝えるべき貴重な文書類だったそうです。

昔から家の継続は、とりわけ長男には基本的条件でありました。それは多分有史以前から続いているであろう伝統、慣習でした。養子をもらってでも続けようと努めて来たのは歴史が証明しています。それが時には少し有利に働くことはあっても、多くは重荷になったとしてもです。

このように、数千年を越えて連綿と続いている慣習は、日本では55年前から次世代への相続の平等化を基本とした法律により、無価値とされるようになり、更に2001年春からの介護保険制度が追い打ちをかけています。

毎週、多くの家庭へ往診して、そこの家庭の状況を知るにつけ、どれだけ多くの家庭が法律と現実の狭間で苦悩を強いられていることでしょう。定住性が低い欧米人とは対照的に、国を挙げての欧米追従指向の中で、定住性の強い農耕民族は本能的に、未だにこの伝統を守り続けようとしています。

何時まで続けられるか、既に崩壊している家族制度の将来は悲観的と言わざるを得ません。今や価値なしと評価されがちな継承は一層難しい事になっています。そして継承を意識するあまり、逆に家族の崩壊をもたらした例も枚挙にいとまがありません。それを避けるためには際限のない気懸かりを、どの程度で達観するかにかかっていると思います。

昔は一世代が25年、今は30年といわれます。C先生はご自分の事業を成功させ、更に次の世代へ見事に継承されつつあります。とても羨ましい事です。そろそろ達観される時。次へのバトンタッチがもう少しだと感じているこの頃、この時こそが静かに後方支援に廻る絶好のチャンスです。

C先生、先生に未だ感性が沢山残っている間に、苦労を共にした奥様と一緒に、それらに一層磨きをかける道を選ぶのも味なもの。そうすることが、動と静、慌ただしい病院の中へ一服の涼風を送り、そこはかとないムードがただよう空間が開かれるでしょう。

そのような無形のものが実は大切なことと思えてなりません。

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