第14回「長府と現代人感覚」 2005
2.22
下関市に長府という古い町がある。古都保存法によって保護されている。
そこには昔を偲ばせる武家屋敷が今も存在しており、その静かな佇まいと雰囲気を求めて、多くの観光客が訪れている。
私達もその情緒を味わうべく訪れてみた。
その町を見下ろす所に功山寺という、本堂は国宝になっている古いお寺があって、長州毛利家の菩提寺でもある。檜皮葺きの屋根を持つ国宝の奥まったところに長州毛利家の墓所がある。そこへの路は狭く荒れていた。これが大名の墓所への路とはとても信じられないお粗末さ。
別の表現をすれば質素といった方がよく似合う。
しかし、墓所は山を背にして周囲を石垣に囲まれ、
規模は小さいものの、厳粛な雰囲気を十分に醸し出していた。
所がである、石垣の上には沢山の墓石が乱立し、更に毛利家の墓所のすぐ上、墓所を見下ろす所にも沢山のお墓があり、いやでも目に入る。あろうことか墓所の周囲は分譲墓地のようであった。
長府は長州毛利家家臣のいわば住宅地であり、今もその子孫が住まわれているはずである。周辺の墓地は、見方によっては、立派な本堂を持つお寺が財政困窮により分譲したのか。
それにしても自分達の先祖が仕えた主君を祀っている大切な場所で、この墓地の光景は何としたことか、余りにもみじめで無神経ではなかろうか。
乃木神社が近くにある。
境内に移築されている乃木大将の生家はあまりに小さく、清貧と呼ぶにふさわしい。旅順攻略で無数の戦死者を出した指揮官として、乃木将軍の責任の取り方は広く知られている。
いわんや当地の人々に於いておや。
同じ長府に住んだ先達の教訓を忘れた市民の感覚を、墓地を通じていみじくも感じさせられた小さな旅であった。